夢と現実の境界線で物語を紡ぐ。アーティスト・さいろめが描く『白昼夢』の世界
- Mizuki Takeuchi
- 2025年12月30日
- 読了時間: 10分

東京藝術大学先端芸術表現科卒業後、東京藝術大学映像研究科アニメーション専攻に在籍し、音楽・映像・ドローイングを軽やかに横断して制作するアーティスト・さいろめ。2024年の卒業制作展でAKANESASU代表・高橋リョウ(以下、高橋)の目に留まり、今回初の個展「白昼夢」を開催した。夢の生成過程に着想を得たダンボールへのドローイング、現実と夢を繋ぐ世界観の創作哲学に迫る。 卒展での出会い——「ビジュアルで引き込む」という哲学の背景にあるもの
――高橋さんがさいろめさんをAKANESASUにお誘いしたきっかけを教えてください。
高橋:藝大の卒業制作展は毎年伺っていて、2024年に上野の東京都美術館のブースで目に留まったんです。藝大全体の展示なのでめちゃくちゃ大きくて、科ごとにブースが分かれているんですよ。
さいろめ:私は先端芸術表現科のブースにいました。スペースの関係上、仕切りがあまりないんですけど、自分の作品は音が出る関係でちょっと仕切りをもらっていて。仕切りの端っこにモニターが置いてあって、映像を流していました。その頃から、YouTubeを見て作品に興味を持ってくださる方がいたので、創作の話を聞きたいだろうなと思って、毎日ずっと会場に座って在廊していたんです。

さいろめ ホームページより
高橋:そうですね、最初に目に止まったのは映像でした。その後にドローイングの作品が目に入って。いくつか質問したところ、ドローイングに対するこだわりを熱く説明してくださって。それで是非AKANESASUに加入していただきたいと思いました。 ――先端芸術表現科の方が作られる作品は、どちらかと言えばコンセプチュアルな作品が多いイメージがあります。
さいろめ:そうなんです。現代社会をテーマに扱うことが多いので、コンセプトやキャプションに比重を置く作品が多いですね。
例えば、空き缶をそのまま作品として、「現代社会のポイ捨て問題を表現する」というキャプションをつけるような作品があったとします。そこに良し悪しがある訳ではなく、アートにすごく詳しい人であれば、レディメイドというジャンルに属する作品だと分かります。でも、普段アートに馴染みがない方にとっては「ゴミを置いてるだけ」に見えてしまう。
自分はどちらかというと、ビジュアルでまず「いいな」と思っていただいて、興味を持ってくれた人がより知りたいと思ってくださるような深みを湛えた作品を作りたいと思っています。そのためには、まずビジュアルで興味を持っていただけるきっかけ、入り口を作るというが自分のポリシーというか、鑑賞者への礼儀だと思っています。
なぜ、「夢」を「ダンボール」に描き出すのか?

――使用されている画材も特徴的です。なぜドローイングの画材にダンボールを選ばれたのでしょうか。
さいろめ:ダンボールは素材として優秀なんです。墨に水をたくさん足して描くことが多いんですけど、普通の紙だと水分でよれてしまう。でもダンボールは紙と紙の間に波型の層があって、また紙を貼ってあるので強いんです。受験の水彩画でも紙がよれないようにする工程があるんですけど、ダンボールは最初からそれが施されている状態なんですね。
加えてコンセプト的な理由もあって。卒業制作のドローイングは、全部自分が見ていた夢を日記に書いて、その風景や概念、感覚を描いたものなんです。夢って、その日の出来事や人生の中の記憶を無造作に、無意識的に混ぜて生成されるじゃないですか。気持ち悪い展開になったり、後から思い返すとつじつまが合わなかったり。
ダンボールという概念を考えた時に、引っ越しなどでバラバラなものを一つに詰めて封をするイメージがあると思うんです。そのダンボールに対するイメージは、どこか夢の生成過程と似ているなと思って。だから夢をモチーフに描くものをダンボールに描くということを、それからずっと続けています。 ――改めて作品を拝見すると、水墨画っぽいところもありますよね。
さいろめ:「絵本を見ているみたい」とか「昔話の挿絵みたい」という感想をよくいただきます。最初から意識しているわけじゃないんですけど、そういう感想をいただいていると、そのようにも見えるかもしれないという気持ちになりますね。 個展のタイトルを「白昼夢」にした理由
――今回の個展タイトルは「白昼夢」ですよね。なぜこのタイトルを付けられたのでしょうか。
さいろめ:2021年に「くらやみ旅道」という音楽を作ったのが始まりです。そのサビの歌詞が夢にまつわるもので、そこから夢をモチーフに創作をするシリーズを始めました。自分でもその世界観が好きで、「さいろめといえば、こういう世界観」という感じになってきています。
ここに描いているキャラクターも全部、夢をモチーフにした創作に出てくるキャラクターなんです。2021年から2025年に至るまで、ずっと夢をテーマにしてきました。今回の個展は、リアルの場で実施している。ということは、起きて意識がある状態で出しているということですよね。「白昼夢」という言葉自体が「起きているけど夢を見ている状態」という意味なので、この空間のタイトルにするならそれがいいかなと思いました。 ――夢が着想のきっかけになっているというお話でしたが、他にも創作に影響を与えているものはありますか?
さいろめ:今回CDを出したんですけど、自分は音楽鑑賞がすごく好きで。好きな音楽グループに「Sound Horizon」というアーティストがいるんです。そのアーティストは、アルバムを出す時に十何曲か入っているんですけど、その十何曲をひっくるめて一つの物語になっているという作風なんです。
それで物語音楽が大好きになって、自分もいつかアルバムとして一つパッケージすることで、1つの物語が完成するという作品を作りたいという夢がありました。2021年から思い続けてきて、まだ完全に完結とは言い切れないんですけど、1つの章が区切りついた頃だなと思って、CDを出せたんです。いろんなアーティストを意識的にインプットして、自分の作品に取り入れるようにしています。
キャラクターたちの役割

左:キャラクターイメージ/右:「車掌」のぬいぐるみ ――作品の中に「エト」さんというキャラクターがいますが、この名前の由来は?
さいろめ:「エト」は、干支から取っています。仲良くしてくれている人に「いい名前がないですかね」と相談したら、「あなたの絵は水墨画っぽいし、日本に昔からあるものの雰囲気がある」と言われて。じゃあそうしようかと。
――「車掌」と名付けられたキャラクターもいますね。
さいろめ:自分の世界観として、現実の世界と夢の世界を繋ぐ列車があるんです。インターネット掲示板に端を発する架空の鉄道駅に「きさらぎ駅」という駅があって、その車掌をしているという設定のキャラクターです。ちっちゃくて、耳が長くて、マフラーをしているコウモリのキャラクターですね。
――マフラーをしているのには理由があるんですか?
さいろめ:ボカロのアルバムとしてやっているんですけど、メインのマントを着てるキャラは「どんぶら」という声を使っていて、このコウモリのキャラは「KAITO」という、初音ミクと同じ会社の青いマフラーをしたイメージキャラクターの声を使っています。だから若干ビジュアルを合わせている感じです。
浅井裕介、きくお――影響を受けた作家たち
――特に影響を受けた作家さんはいますか?
さいろめ:ドローイングの作家さんで浅井裕介さんという方がいます。あとボカロPできくおさんという方がいらっしゃって、その方は音楽がメインなんですけど、昔のアルバムではご自身で絵も描かれていたんです。
お2人とも半分抽象、半分具象みたいな動物の絵を描かれていて。浅井さんは動物が多くて、周りの模様が抽象的な植物を表しているような感じ。線のタッチや線の感覚の掴み方に関しては、そのお二人の影響が強いですね。
――2021年からとおっしゃっていましたが、どういう順番で始められたんですか?さいろめさんは、最終的に映像も音楽もあらゆるメディアを横断して制作されています。
さいろめ:物心つく頃から絵を描くことはしていました。ちっちゃい頃から歴史上のドラゴンみたいな想像上の生き物がすごく好きで、ずっと描いていて。それで藝大に進学しようと思ったんですけど、その頃は作家として独立することはあまり考えていなくて。
むしろ就職することを前提に考えていて、「絵が好き」くらいの感じでいたんです。でも大学2年くらいの頃に、作家として個性を持って活動をしっかりしたいという思いが強まった時期があって。その頃に浅井さんや稀神さんの作品を参考にしたり、他の作家さんの生い立ちも調べたりしました。
当時は自分の作風が決まっていなくて、粘土造形に手を出してみたり、写真をやってみたり、イラストやアニメーションをやったり、いろいろまばらなことをやっていました。ただそれぞれが点々としていて、世界観として説得力がなかった。
でも世界観として物語を出力したいと考えた時に、映像という媒体は強いなと思ったんです。絵が描けるから頑張ればアニメーションもいける。でも足りないのは音楽だなと。それで2021年くらいに曲を作る練習を独学で始めて、なんとか今、形にできるようになりました。
――大学2年の時が転換点だったんですね。具体的にきっかけはあったんですか?
さいろめ:きくおさんという作家さんにめちゃめちゃ憧れていて。その方はMVの絵もご自身で描かれていて、今は世界的に有名になっちゃったんですけど。当時ちょうど進路にすごく悩んでいて、直接メールを送ったことがあるんです。
――憧れの方にメールを送る勇気もすごいですね。
さいろめ:その頃はちょっと悩みまくっていたので……。そしたらすごく優しく返信をくださって。熱心なファンだったので、向こうも自分のことを認知してくださっていたようです。「アドバイスをいただけますか」とお願いしたら、「日々新しいものに出会って、刺激にし、より良い作品を作る」のが良いという言葉をいただきました。それが2021年頃で、その頃から頑張ろう!と思って今の形になりました。
そして、物語の第2章へ:未来への展望

――今回、第1章が一区切りついたというお話でしたが、今後の第2章はどんなことを考えていらっしゃいますか?
さいろめ:今作っている修了制作の作品で、新しいキャラクターを出したりするんですけど、まだアイデアはあるけど出し切っていない作品を形にするところをこれからやろうかなと思っています。
――今までは「案内人」さんと「車掌」さんがメインのキャラクターでしたね。
さいろめ:そうです。これからはそれ以外のキャラクターをメインに据えて始めていきます。世界観を急に変えるとかではなくて、やっぱり作風によるので完全に一気に変わることはしないんですけど、いろんな創作をしたいという気持ちはあります。世界観の根底は押さえつつ、種類を増やしていきたいですね。
夢をモチーフにした創作の第1章が区切りを迎え、新たなキャラクターを軸にした第2章へと歩みを進めるさいろめ。今後の活動にも引き続き注目したい。
【編集注】
・先端芸術表現科:東京藝術大学美術学部に2005年に新設された学科。メディアアート、パフォーマンス、インスタレーションなど、既存の枠組みにとらわれない表現を探求する。
レディメイド:マルセル・デュシャンが確立した手法。既製品をそのまま、あるいは最小限の加工で芸術作品として提示する。
・Sound Horizon:Revoを中心とする日本の音楽ユニット。「物語音楽」というジャンルを確立し、アルバム全体で一つの壮大な物語を紡ぐ作風で知られる。
・浅井裕介:現代美術家。マスキングテープや泥絵具など独自の素材を用い、植物や動物が絡み合う有機的な作品で国内外から高い評価を受ける。
・きくお:ボカロP、作曲家。独特のダークな世界観と中毒性のある楽曲で国内外に熱狂的なファンを持つ。MVのイラストも自身で手がけることで知られる。
Interview/Writing:Mizuki Takeuchi

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