
クリエイティブを通じて、より良い社会創出の可能性を探るメディア「藝鏡」。
今回は、カルチャーを軸として、時代に新たな風を呼び込んできたPARCOにお邪魔した。
創業の地である池袋PARCOでは、AKANESASU所属のグラフィックデザイナー・映像作家である田﨑礼朗の「DISTANCE」展が開催された。展示を記念して、「カルチャーを創出する場づくりはいかに可能か」というテーマのもと、同社代表の高橋諒、株式会社パルコ 池袋店の青木佑多さん、齋藤航太さんによる鼎談の様子をお送りする。
PARCO入社のきっかけとニーチェの「超人思想」

——青木さんは新卒でPARCOに入社されたと伺いました。なぜPARCOへの入社を決めたのでしょうか?
(青木)実は、この業界を受け始めたのは友人の影響で、就活を始めた当初、PARCOの志望度はそこまで高くありませんでした。しかし、自分が本当に関心を持っているトピックをエントリーシートに記載したところ、PARCOは非常に真摯に受け止めてくれるというのを面接のたびに実感していったんです。この会社なら自分のモヤモヤも解消できるのではないかということで、入社を決めました。
——差し支えなければ、どのようなトピックをエントリーシートに書いたのか教えてください。
(青木)ニーチェの超人思想をベースにして志望理由を記載していました。PARCOという会社は、自らの確立した意思を基に行動できるマインドを持った人々——超人が集まる会社であり、そのような人たちと共に働きたいといった内容を書きました。
——非常に興味深いですね!ちなみに、人文系等の学問を専攻されていたのですか?
(青木)国際経営学部に所属していたので、実は文学や哲学を専攻していたわけではありません。しかし、考えることは好きで、本を読むことはある種趣味のようなところがあります。
(齋藤)青木さんのように、自分で考えて、しっかりとした方向性を持ったメンバーが多い組織ではあります。とはいえ、基礎的な内容もこなせるように、先輩として日々サポートをしつつ業務を覚えてもらっているところです(笑)。 余白があるものを大切にする

——PARCOには、クリエイティブと共に時代を作って来たというDNAがあります。おふたりの、ご自身を形作ってきたと思われるクリエイティブな作品について教えてください。
(齋藤)後藤静香(ごとう・せいこう)さんの「第一歩」という詩でしょうか。初めに立てた目標に応じて成長の度合いは変わるので、毎日きちんと考えながら生きていきましょう、という内容です。中学生のときに打ち込んでいた野球部の監督からそれを言われて、社会人になってからも、それは意識しています。
十里の旅の第一歩 百里の旅の第一歩 同じ第一歩でも 覚悟がちがう 三笠山にのぼる第一歩 富士山にのぼる第一歩 同じ第一歩でも 覚悟がちがう どこまで行くつもりか どこまでのぼるつもりか 目標が その日その日を 支配する
あと、僕は涼宮ハルヒ世代なんですね。友達に勧められて読んだときに、「面白いことは待っててもやってこない」ということを主人公が言っていて、確かに!と思ったんです。 当時は学校に行って、部活に集中して…と、日々流れるように過ごしていたんですが、楽しいことは自分で掴みに行く必要があるんだと。それから、麻雀やキャンプ、ファッション…と興味の視野が広がったからこそ、のちにPARCOへの関心につながったのかな、と思います。
——青木さんはいかがでしょうか?冒頭でお話を伺ったニーチェの他にも、もしあれば教えてください。
(青木)僕は、鬼八頭かかしさんの『たとえ灰になっても』(スクウェア・エニックス)という漫画でしょうか。実は、作者が2019年に亡くなって、連載が打ち切りになってしまったんです。リアルタイムで追っている漫画が打ち切りになるという経験が初めてで。
未完の作品なので、その先はどう頑張っても読めません。当時は19歳なりに「もし連載が続いていたとしたら」と想像力を働かせていたこともあったので、その余白が非常に印象に残っています。 クリエイティブを通じて「場」をつくる

——AKANESASUとの協働はどのような経緯で始まったのでしょうか?
(高橋)吉祥寺PARCOの8階に「SkiiMa」というインキュベーション施設があって、創設時からそこに拠点を置いていたのが、そもそものきっかけかもしれません。
AKANESASUに、東京藝術大学で油絵を専攻する傍ら、映像制作にも取り組んでいる中山夏希というメンバーがいます。2024年7月、自主制作映画にあたり資金調達が必要だということで、吉祥寺PARCOさんからクラウドファンディング担当の方に繋いでいただいたというのが最初の流れです。
(齋藤)PARCOとしては、「まちづくり」「情報発信」「インキュベーション」を掲げています。インキュベーションや情報発信を通じてお手伝いができないか、という流れのもとで池袋店の場所をお貸しして…というところから取り組みが始まりました。
クラウドファンディング自体はWeb上で完結しますが、PARCOとしては場所を提供できるというところが強みですね。
——今回、グラフィックデザイナー・映像作家である田﨑礼朗さんの「DISTANCE」展でもコラボレーションが実現しているそうですね。

(高橋)そうですね。今回展示している田﨑は、渋谷PARCOリニューアル3周年ムービーのモーショングラフィックを作っていたりと、元々PARCOさんとも縁のあるデザイナーです。他の所属クリエイターを含めて、現状はクライアントのために何かをデザインする、という方向での引き合いが多いですが、今後はアートワークでのコラボレーションも増やしていけたらとは思っています。
(齋藤)これも個人的な話ではありますが、偶発的に何かが起こる場を作っていけると良いとは思っています。人が集まり、何かが生まれ、それを応援できるような動きは続けていきたいですね。
また、「PARCO」の名前自体も、イタリア語の「公園」にちなんでいます。大まかな業界分類として、PARCOはデベロッパーですし、まちづくりに主軸を置いている企業ではあります。ですが、働いてる人間としては、どちらかといえば「営業」や「総務」というよりは、プロデューサーのような感覚でいます。
既存のものにとらわれずに新しい価値を足していきたい、というマインドは皆近しいものを持っている気がするので、プロデュースやコラボレーションを通じて社会を盛り上げられると良いなと思います。
(青木)場という話だと、僕個人としては、中世ヨーロッパにおけるコーヒーハウスが理想的な場づくりだと考えています。コーヒーハウスは、本質的にはコーヒーではなくて、そこに集積された情報に価値を見出して人々が集っていたそうです。
PARCOに話を戻すと、テナントさんの商品も「商品」と括られがちですけど、ある種1つの作品ですし、もちろん、AKANESASUさんのアートも含めて、それを欲している人が見ればすごく価値のある情報を有していると思います。自分としても、そういった意義あるものを集約させた1つの場を作りたいと思っているので、AKANESASUさんを含めて、クリエイターの方々との協働は今後も続けていきたいですね。
また、iPhoneもそうですし、何かが広く知れ渡るためには、アートのように、感覚的に良いと感じられるような要素を足していくことは、重要なことだと思っています。各店舗の商品を見るだけでなく、人々が見たり聞いたりして楽しめるような空間を作り上げることによって、それが思い出に残って、なおかつ誰かの聖地になったらいいなと。まだ入社1年目ではあるので、これから頑張りたいですね。

その名の通り、公園のように人々が集い、さまざまな化学反応を生み出してきたPARCO。2024年11月23日に開業55周年を迎えた池袋PARCOを始め、今後も全国に新たな、しかし血の通ったカルチャーを創出していくことだろう。
文・写真:Mizuki Takeuchi
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